『室町は今日もハードボイルド〜日本中世のアナーキーな世界〜』
清水克行著、2024年1月 新潮社
・本書を読むと現在の”おとなしくて控えめ”という日本人のイメージが大きく覆ります。
・中世の室町時代は、東に幕府、西に公家政権が存在し、地方社会は荘園等によって細かく分節化されていました。この時代、庶民は村や町を拠点に生活しており、幕府法、公家法、荘園内の法、村法などが複雑に絡み合うアナーキーな社会構造が形成されていました。
・第2話「山賊・海賊のはなし」では村上海賊は有名ですが、琵琶湖の海賊(湖賊?)は初めて知るものでした。
・中世では北陸から京都に物資を運ぶのに琵琶湖を利用していましたが、必ず通行する堅田地区には通行料を徴収する関門が設けられ、通行料を払わないと海賊衆から制裁を受けていたそうです。
・この堅田地区で兵庫という青年による金銭目当ての山伏一行16人の大量殺人が起こりました。この事件が公になり責任を問われて兵庫の父は切腹し、逃げた兵庫は阿弥陀如来への信心に目覚めるのですが、信心への目覚めが大量殺人の罪悪感でなく父を死なせたものという誠に身勝手なもの。どんな感覚かとツッコミたくなりますが、中世では近隣住人や家族とのつながりが一番頼りであり、人間の生命はつねに等価でなかったのではとしています。
・さらに、第4話「ムラのはなし」では琵琶湖の北の菅浦集落の田地を巡る150年もの長きにわたる衝突や、第5話「升のはなし」では年貢を納める際に使用された升の容積が地域によって全く異なっていたことなど、中世の社会が抱えていたアナーキーな側面に光を当てています。
・『室町は今日もハードボイルド』は、ただの歴史書以上のものを提供してくれます。中世日本のアナーキーな世界をユニークな視点で読み解きたい方におススメの一冊です。
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