傍らに書物

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『命令の不条理』

『命令の不条理』 菊澤研宗 2022.11 中公文庫

・過去に読んだ本でもベスト3に入る『組織の不条理』の続編です。

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・前作『組織の不条理』では第二次大戦での日本軍の作戦失敗は単に非合理的な考えで方で実施したわけではなく、限定された合理性の中で失敗したとし、以下の3つの理論で解説がされていました。
①取引コスト理論▶︎新しいことをやるには今までのやり方を捨てるのは負担。人間関係の調整も大変。
②エージェンシー理論▶︎指示する人は完全にやることを求めるが、指示された人は必ずしも完全にできないし、抜け道をさがしたりする
③所有権理論▶︎例えば公害にすぐに対策すべきだが、コストが無限大の場合の時などは徐々に解決するしかない

 

・本書はこの『組織の不条理』の解答編です。

その解答とは“命令違反”でありドキっとしますが、単に命令をやらないとかいうことではありません。命令違反に「良い命令違反」と「悪い命令違反」があるとしています。

 

・良い命令違反としてペリリュー島で上陸するアメリカ軍に対して水際撃滅作戦をとらずに命令違反により洞窟陣地持久作戦を展開した中川大佐の例が挙げられています。この作戦は中川大佐の覚悟から来るものだったのですが、映画『硫黄島からの手紙』の栗林中将らに引き継がれていきました、組織全体を良くした例です。

 

・逆に悪い命令違反の例としては個人の面子を意識しすぎたインパール作戦等が挙げられています。

 

・こういった事例を単に結果だけでなく、取引コスト理論や心理状態から分析しているので、現在の企業経営にも大変参考になる内容です。

 

・組織は完全合理的な人間組織にはなれないので、限定合理的な人間組織であることを受け入れて、組織、社会のためになる良い命令違反を受け入れながら進化していけるか。これがとても重要だと感じました。